チェリー達よ天駆けて。
「チェリーだから何だってんだ!」
「一之江首相バンザイ!」


ーソファに寝転がった大気の目の前には大インチのテレビが置かれており、それには今や“時の人”こと一之江首相を肯定する集団が写されていた。



「…まだこのニュースやってんのか。どんだけネタ不足なの、マスコミ。」


大気は手探りで足下に置いてあったリモコンを掴み、チャンネルを変えた。

だが、映っている映像は先程のチャンネルと変わらないものだった。

またチャンネルを変えるも、映像は変わらない。



…なんだ、この世の中は。


現代の唯一の情報源、テレビすらも首相を持ち上げ、顔をどんどん大きくしている。

そんなに嬉しいかい、「最高階級」でいれることが。

大気は噛んでいたガムを銀紙に包み、捨てた。



ー現在の日本の政策は、通称、“一之江政治”と呼ばれている。

国民をセラ、ライヴ、ユルの三つの階級にに振り分けるという大胆な政策は、当時は国民の反感を買っていたが、今ではそんなことも忘れられ、この「三階級制度」は広い世代に認めらるようになった。


セラとは、最高階級の人間のことだ。

なにかの用事で順番待ちをする時など、何かと優遇されるのが特徴で、国民の3分の1がこの階級だ。
首相などの重要な役職になった者は、元ライヴでもセラに階級の変更をすることが認められる。

セラは、生まれた時(セラになった時)に抽選が行われ、運が良い者だけ一人“一つ”のユルを付き人(大体のユルは奴隷や性処理にされているが)として与えられる。


ライヴは一般人。
かといってセラと比べて極端な扱いの差があるわけでもない。
チャンスがあればセラへの階級の変更も可能。
国民の3分の2がこの階級。


ユルは最低階級。
ライヴと比べ、国からの扱いに大きな差がある。
ユルは規則として、中学生になるとセラの付き人として労働をすることになる。
国民に僅かにしか存在しない。


…ちなみに俺はユルだがまだセラの付き人にはなっていない。
恐らくまだ“マスター”が決まっていないのだろう。

連絡はいつ来るか分からないが、従順に従わないということだけは心に決めている。



それと、一之江政治と「いえば」…とも使える程ポピュラーな存在となった、“チェリー法”も有名だ。

現在、この国では少子化が進んでいる。
それを解決するためには早い内から経験を積んでいなければいけないと、政府が考えたのがこの法律だ。


年に一度、小学生には「チェリー卒業抽選」をする資格が与えられる。

その抽選の内容は、名前そのままだ。

「人生には運も必要」という首相の発言から始められたが、六回もチャンスがあるのだから抽選に当たらない者はまずいないといっていいだろう。

抽選後、抽選に当たった者達はホテルへ集団で連れていかれ、性なる夜を過ごすこととなる。



ーまぁ、俺は抽選受けなかったからチェリーのままだけど。

童貞のまま中学生になったものは数少ない。
政策が始まってからかなり経ったはずだというのに、つい最近ローティーンになったばかりのこの俺がローティーンの童貞「三代目」だ。


みんなビッチだなんてひどすぎるよね。こんな世の中。

昔は童貞なんて大人になってから卒業するものだったのに、今では小学生で卒業しないと変人扱いされるくらいだし。



…足下から携帯の着心音が聞こえ、ふと下を見ると、幼馴染みの零から電話がかかってきているようだった。


「…セラのお偉いさんが今時ユルなんかに何の用だか」

大気は、[通話]ボタンを押した。
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