涙の雨と僕の傘
次の日の放課後、名瀬に会った。
俺は基本、教室ではひとりで、クラスメイトとは喋らない。
人間関係は煩わしいし、日々のバイトで疲れているから、ひとり静かに過ごしたいのだ。
名瀬は彼氏を待っていると、ひどくかすれた声で言った。
風邪を引いたらしい。
昨日名瀬を、雨の中ひとりで帰らせてしまったから。
一緒の傘に入れないのなら、俺の傘を貸してあげればよかった。
「んで、アイツがなかなか来なくてこんなとこ突っ立ってるわけです」
「……名瀬の彼氏って、D組の人だっけ」
「そう。派手で目立つ奴」
「ふーん……」
「……もしかして、女とでも一緒にいた?」
ぎくりとする。
なかなか名瀬は鋭い。
廊下でさっき見かけたのを思い出したのだ。
髪の長い女子と一緒にいた男、確か名瀬の彼氏じゃなかったかなと。
「はは」
名瀬はまた笑った。
泣きそうな顔で、笑った。
だからハンカチを差し出したのに、名瀬は不思議そうに大丈夫だと言う。
自分がいまどんな顔をしてるのか、わかってないんだろう。
それでも、デートだからと彼氏を待つ健気な名瀬に、持っていたのど飴をひとつあげた。
たかがのど飴ひとつで、名瀬はひどく嬉しそうな顔をした。
こんな簡単なことで名瀬は喜ぶのに、どうして彼氏は笑顔にしてあげないんだろう。
また心で浮気彼氏を罵倒しながら、俺は彼女を置いて学校を出た。
彼氏を笑顔で迎える彼女を、見たくないと思った。