涙の雨と僕の傘
また他の生徒にぶつかって、クッキーを割ったりしていないだろうか。

気になって名瀬を追って教室を出た。


彼女の姿を探して廊下を行けば、見慣れた後姿を見つける。

なぜかひとりで、棒立ちになっていた。


どうしたんだろう。

彼氏が見つからないのか。


声をかけようとして気づいた。


彼女の見ているだろう先に、例の男がいることに。


浮気彼氏は名瀬ではない女子と、廊下でふたりきりで話していた。

相手は前にも一緒にいるところを見た、長い髪の子だ。



名瀬の背中が、あまりにも悲しそうで、寂しそうで、

人目がある廊下にも関わらず、抱きしめてやりたくなった。



名瀬はやがて、彼氏には声をかけず、階段をのぼっていった。


静かに、音を立てずに後を追うと、

彼女はクッキーの包みを開けて、それを一枚口に運んでいた。


「……あまっ」


俺が作ったクッキーを食べて、そう呟いた名瀬。

その途端、こぼれる涙。


泣くならひとりで泣かないで、

俺の前に来て泣けばいいのに。


そうしたら俺は、遠慮なく慰めて、甘やかすことができるのに。



そのあと、教室で会うと、名瀬は何事もなかったような顔で


「渡せたよ、ありがとう」


と嘘を言った。


俺の前でムリをしないで。

そんなにムリして笑わないでいいんだ。



そう言いたいのをがまんして、


俺は「よかったね」と、心にもない返事をした。


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