涙の雨と僕の傘

夏休みに入り、俺はバイトを増やした。


家庭教師のシフトも倍にして、引っ越しのアルバイトも短期で始めた。

これが想像以上にきつかった。


給料を考えても、割りに合わないと思うくらい大変で。

家にふらふらな状態でたどり着いて、何もせず寝る、という生活がずっと続き、正直限界に近かった。



夏休み中盤のある日。

いつも通りふらふらしながらアパートに帰ると、部屋の前にしゃがみこむ名瀬がいて驚いた。


いったいいつから待っていたのか。

汗をかいて、少し肌を赤くした名瀬が、俺にお帰りを言う。



お帰り、なんて


久しぶりに言われた。



じわじわと、そんな喜びがわいてきたけれど、

なんだか名瀬の様子がおかしい気がして、気を引き締めた。



名瀬は一人暮らしの俺を心配して、様子を見にきてくれたらしい。

名瀬からの連絡にも気づかなかったなんて、俺もそろそろ本当にまずいなと思う。


食べ物を色々持ってきたと言われて、最近あまり感じなくなってきていた空腹が一気に押し寄せた。


名瀬が神様、いや、女神様に見える。


実際彼女はとても優しい。

いつも俺の栄養面を気にしてくれているし、

優しいからこそ、あの男のことも、見捨てられないんだと思う。



名瀬。


君はあの男が、浮気を許してしまうほど好きなんじゃない。


ただ、どうしようもない彼氏を、見捨てられないだけなんだ。



そうに決まってる。

でも、俺はそれをまだ、口にすることはできない。
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