彼女のことは俺が守る【完全版】
 ソファに寝ていた海斗さんはゆっくりと身体を起こし、大きく天井に腕をあげ伸びをしたかと思うと、急に何かを思い出したかのように私を見つめた。


「里桜」


 海斗さんの優しいバリトンの声は電話越しよりも甘さを含んでいて、姿を見ただけでも嬉しかったのに、声を聞き、視線が絡むと胸の奥が苦しくなる私が居た。言いたかった言葉が消えていく。やっとの思いで口に出来たのは当たり前過ぎる言葉だった。


「おかえりなさい」


「ただいま。里桜。留守の間困ったことはなかった?」


「大丈夫です」


「それならよかった。で、この匂いは里桜が料理したの?」


「はい。海斗さんも食べますか?」


 海斗さんはまだ少し眠たいのか、もう一度大きく伸びをする。髪はソファに寝ていたからクシャっと乱れている。それがまた魅力溢れると思うのはどうしてだろう。


「俺のもあるの?あるなら食べたい。昼にロケ弁を食べてから殆ど何も食べてないんだ。先にシャワー浴びてきたいから、準備してくれると助かる」


「わかりました。でも、味には保障しませんよ」


「そう?俺には食欲をそそる美味しそうな香りしかしないけど?楽しみにしているから」


 そんなハードルを上げるような言葉を残して海斗さんはバスルームに行ってしまった。楽しみにしていると言われても自分の料理の腕は自分が良く一番知っている。ごく普通の一般家庭のテーブルに並ぶものしか作ることが出来ないのだから、海斗さんの口に合う事だけを祈るしかなかった。
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