彼女のことは俺が守る【完全版】
 海斗さんの言うとおりだと思った。


 今日、海斗さんとこの場にいることできっと私は『付き合っていた彼を友達に寝取られた女』では無くなったと思う。『俳優篠崎海の幸せな婚約者』として皆の意識に刷り込まれたことだろう。


 車に乗るまでの間、私は海斗さんと腕を組んで幸せそうに見えるように頑張った。周りの人の間を抜けながら歩く私はどう思われるか分からない。でも、私はきっと幸せそうに見えるとは思う。海斗さんの方を見上げるといつもの穏やかな微笑みがあって、私を包み込む。


「その調子。里桜は俺だけを見ていればいい」


 海斗さんの言葉は有難かった。駐車場までの道にはたくさんの人がいる。その殆どが知り合いという中で私は周りを見るのが怖かった。どんな表情で私を見ているのかと思うと視線は足下に移ってしまいそう。


 海斗さんの言葉は私をまっすぐに向かうことが出来させる。駐車場までの道のりは遠く、それでも海斗さんの言葉に自分を合わせながら歩くしか出来なかった。そして、車に鈍込むと私はホッとした。


 そして、海斗さんを見つめると穏やかに微笑んだ。


「お疲れ様。いい演技だったぞ。帰ろう」

「はい」


 海斗さんの車にはたくさんの人の視線が集まっている。俳優篠崎海と歩く私を遠巻きに見つめながらも、気になって仕方がない人が多いようだった。私が海斗さんに手伝って貰って車に乗り込むと車の周りに人が近づいてくる。車の回りにはたくさんの人がいたけど誰とも目を合わせないようにした。


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