彼女のことは俺が守る【完全版】
「里桜。車が動くから」


 海斗さんが運転する車が結婚式場の敷地を出ると私の張りつめていた気持ちは緩み、涙で潤んでいくのを感じた。目頭が熱くて涙が頬に零れそうだった。泣いているのを海斗さんに知られたくないと思った。


 優斗を思っての涙ではない。
 そう思いたかった。でも、実際は…過去の自分を重ね合わせる。


 優斗と元友達は私の友達に囲まれ幸せの中にいた。あの中に居たのは私かもしれないと思うと居た堪れない。今となっては結婚したいとは思わないけど、あそこに私の望んだ未来があったのは事実でそれを曲げることは出来ない。

 海斗さんが傍にいて、ある意味、リベンジは出来たと思う。でも、この結婚は『偽装』なのだから、私の心が本当に癒されるわけではない。結婚式の痛みは心に重く圧し掛かる。


「このままマンションまでまっすぐに帰るから、それまで泣くな。部屋に帰ったらいくらでも泣いていいから」


 車の中で涙を我慢するのは難しいことだった。


 優斗には恋心はないと今は言える。あそこまで馬鹿にされても好きだと思えるほどではない。楽しかった思い出も心の奥から流れ出す。ずっと好きで一緒に生きて行くと思っていた人の結婚式にお祝いに行くというのは辛すぎた。


「海斗さん。本当にありがとうございます」


 そんな私の言葉に海斗さんは何も言わず、そっと左手を伸ばして、私の手を優しく握ったのだった。

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