彼女のことは俺が守る【完全版】
 マンションまで戻ってきて、海斗さんの部屋まで戻ってくると玄関のドアを開けた瞬間に気持ちが緩んだのか涙が頬に零れた。それを手で拭ってもまた零れてくる。自分はこんなにも弱い人間だったのだと思い知る。今日の朝からの私はずっと緊張の中にいた。

 
 とっても怖かった。逃げ出したいくらい怖かった。

 
 でも、逃げてもどうにもならないということも分かっている。海斗さんが居てくれたから真っ直ぐに前を見て歩くことも出来た。


 優斗のことも元友達のこともどうでもいい。


 今の私は無理やり笑った反動で涙を流していた。海斗さんと一緒に結婚したことで表面上は取り繕うことは出来た。でも、私の心の奥はまだ涙が零れてしまう。結局は私は一人なのだと思い知る。


 そんな私の耳元に響くのは海斗さんのバリトンの声が優しく囁いた。


「里桜。一人で泣くか、俺のいる前で泣くか選ばせてやる。どうする?」


 後ろからそっと抱き寄せられ、私の身体は海斗さんの身体に包まれる。その温もりが私を少しだけ素直にさせた。抱き寄せられたまま、私は私の首元に回された手に自分の手を添えた。


 海斗さんの優しさはここまで、これからは私がどう動くかを海斗さんは待っている。どう動いても海斗さんが受け止めてくれるのだろうか?


「海斗さん。男なら泣いている女は慰めるべきでしょ」


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