彼女のことは俺が守る【完全版】
「泣いてないです」


「そんなに赤い目をしていればわかるよ」


「なんでもないです。ただ、緊張が解けただけですから」


 そう言っても海斗さんはゆっくりと首を振った。私の気持ちなんか見透かされているのだろう。


「里桜の願いはなんでも叶えてやる。だから、里桜の気持ちを素直に言ってみろ」


「何もないです」


「嘘を吐くな。里桜は理由もなく泣いたりしない。俺に出来ることなら何でも聞いてやる。だから、俺にだけは素直に自分の気持ちを言って欲しい」


 全てを見透かす澄んだ瞳に私は囚われたような気がした。自分の心の中に何重にも鍵を掛けたのに、それさえも簡単に解いてしまう。甘いバリトンの声がいつも以上に甘く感じ、その甘さは毒のように私を酔わせていく気がした。逆らえないほどの魅力を放出させた海斗さんは私を逃がしてくれはしない。


 素直になるのはこんなにも勇気がいる。


「欲しいものがあります」


「言ってみて」


「私が欲しいのは…」


「欲しいのは?」


 なんと言ったらいいのだろうか?私の気持ちをどう表現すればいいのか、どの言葉も陳腐に感じてしまうほど、私の心の中は纏まらない。海斗さんへの思いは私の中に確実にあるのに、言葉にならない。簡単な言葉さえも出て来ない。


「………。」


「里桜。俺に教えて欲しい」

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