彼女のことは俺が守る【完全版】
 そんな私に聞き違いではなかったのだと言いたげに篠崎海は口にする。初めて会った女にその場でプロポーズする俳優なんか私は知らない。優斗に振られた今、篠崎海にからかわれることを冗談で流せるほどの余裕はなかった。


「本気とは思えない」


「俺は本気だよ。俺と結婚すれば君はさっきの男を見返せる。それに自分でいうのも可笑しいけど、俺はあの男には負けない自信がある。でも、この結婚は君だけでなく俺にも十分な利点はある。俺のファンはちょっと情熱的過ぎて、この頃仕事にも支障をきたしだしたから、結婚すれば少しは楽になる。仕事に打ち込める」


 ゆっくりと綺麗なバリトンを響かせながら話す彼に私は視線を奪われていた。これこそ、さっきよりも酷い白昼夢なのかもしれない。疲れてから自分に都合のいい夢を見ているのだろうか?そう思って瞬きをしても目の前の篠崎海に微笑みは変わらない。


「言っている意味がわからないわ」


「簡単なことだよ。これは偽装結婚。君が他に好きな男が出来て別れたいと言えば、俺はすぐに別れる。結婚するのだから俺のマンションに一緒に住んで貰うけど、君に一切手を出すつもりはないし、寝室は言うまでもないことだけど別々。家事をする必要もないし、仕事も続けていい。

 どう?悪くない条件と思わない?いくら別れる彼女だとしてもあそこまで馬鹿にされたら悔しくない。俺が君を守るよ。里桜」

「でも…」


「里桜の今の望みは?」


「私を踏みつけにしたあの二人よりも幸せになりたい」


「なら、俺を利用しろ」

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