彼女のことは俺が守る【完全版】
「出来るだけ急いでいくから、俺が来るまで動くなよ。分かったな」


「はい」


 電話を切ると急に自分が取った行動がよかったのかと思ってしまった。でも、私は篠崎海に救いの手を伸ばし、そして、その伸ばした手を篠崎海はしっかりと掴まえてくれようとしている。私は一度息を大きく吐いてから篠崎海に言われたように必要最低限の物だけバッグに詰めることにした。


 いつまたここに帰ってくるのか分からないけど、今さえどうにかなればいいと思った。着替えの洋服に下着、それと化粧品。それくらいでいい。小さなボストンバッグに詰め終わると急にこれで良かったのか心配になる。


 篠崎海の本心は分からない。ただ、優しい微笑みだけが私を動かしていた。


 時間は午前一時を少し過ぎた頃だったと思う。握り締めていた私の携帯が震え、画面にはさっき私が押した番号が浮かんでくる。そっと画面を撫で耳に当てると甘いバリトンの声が響く。


 篠崎海の声だった。


「悪い。少し遅くなった。今マンションの下に着いたぞ。降りてこい」


「わかりました」


 私は電話を切ると玄関に置いていたボストンバッグを取ると、そのまま自分の部屋を後にした。エントランスと抜けるとそこには真っ黒な車があった。彼のイメージとはそぐわないその車はどこかアウトドアにでもいくような大きさで、月明かりを受けて綺麗なシルエットを浮きだたせる。そして、その車体に寄りかかるように立っているのは篠崎海でマンションから出てくる私を見つめ微笑んだ。

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