彼女のことは俺が守る【完全版】
 婚約記念のディナーなんかサラッと言うけど、そんな言葉を言われて緊張しない人なんか居ないと思う。周りは全く気にならないけど、目の前にいる篠崎海が眩しいくらいに綺麗な微笑みを向けるから私はどうしていいか分からなくなっている。


 私を一番緊張させているのは『格好良くて素敵過ぎるあなた』なんですよ。


 なんて言えない。


「ありがとうございます」


 そんな話をしていると先ほど頼んだシャンパンがテーブルに運ばれてきた。篠崎海がどのくらい飲むのか知らないけど、ここに持って来られたのはグラスではなくボトル一本だった。それを、店員が手際よく栓を外し、篠崎海の目の前にあるグラスと私の目の前にあるグラスにゆっくりと注いでいったのだった。


 豪華な黄金色をした液体の中に繊細な泡がゆっくりと連なり上がっていく。そんな繊細の泡を見つめていると、目の前の篠崎海はグラスと手に取って私を見つめた。



「乾杯しようか。里桜との出会いに乾杯かな」


 とっても穏やかな声だった。
 

 妙なタイミングで出会った私と篠崎海だけど、今はあの時、真横の席に篠崎海がいてくれた偶然がこんなにも私の心を癒していくことになるとは思わなかった。裏切りの苦しみも癒えはしないけど、少しだけ楽にはなっている。それは私の傍に篠崎海がいてくれるからだろう。


 グラスが重なる共鳴音と共に微笑み、そして、形のいい唇がグラスにつけられた。そして、テーブルにグラスを置くと少しだけ無邪気な表情を私に向けたのだった。
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