彼女のことは俺が守る【完全版】
「名前で呼んで欲しい。篠崎さんと言われると何だか里桜と距離を感じる。これから一緒に住むのだから、出来れば名前で呼んで貰えたら思う。里桜が嫌なら無理強いはしないけど、前向きに考えて貰えたらとは思う」


 それは私に『篠崎さん』ではなく、『海斗さん』と呼んで欲しいという事なのだろう。でも、正直躊躇する。篠崎海は若手実力派俳優と言われる人で、一般人の私とは違う。それをまるで本当の彼氏に向かって言うような呼び方はまだ早すぎる気がした。


 でも、私の目の前にいる篠崎海は期待に満ちた表情を浮かべ、私に逃げ道をやっぱりくれない。優しいのに逃げ道をくれないところは少しだけイジワル。


「か…海斗さん」


 私は息を吐ききってから名前を言うと、キュッと目を閉じた。


 目の前にして改めて名前を呼ぶなんて恥ずかしすぎる。ゆっくりと目を開けると篠崎海は今日の中で一番の笑顔を浮かべている。なんてこんなに素の表情が素敵なんだろう。飾らないその笑顔に私は視線を釘付けにされた。ただ、名前を呼んだだけなのにとっても嬉しそうでこんな顔をされるならこの方がいいと思った。


「やっぱり里桜に名前で呼ばれると嬉しいな」


 恥ずかしかったけど、名前で呼ぶとちょっとだけ近付けた気がする。

 それもまた嬉しかった。

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