彼女は僕を「君」と呼ぶ
交わらない目線
貰ったジュースのパックには小野寺と書いてあった。

彼の文字を見た事はないが、間違いなく悠生のものだと確信できる。

どうしてこれを彼が持っていたのか、悠生に貰ったから、私にくれたのだろうか。

真っ白な紙に黒のボールペンで最初は円を描いた。グルグルと。

段々その円は大きくなって、それからはみ出して気づけば真っ白な紙は真っ黒へと変わっていた。

時折、黒の隙間からこちらを伺うような白が居たが、もう、真っ白には戻らない。

今の私の感情はそんなぐちゃぐちゃなのだ。

玄関に降りると、並ぶ靴が一足増えた。

向かって右側から二番目その定位置に収められているローファーは光沢さえある。

「お母さん、私の靴…」
「そこにあるでしょ?新しいの。それ履いていきなさい。もう変な歩き方しちゃだめよ」

無理矢理押し込んだ固い靴に、これは違うと言われているようで。

結局私は、八つ当たりをしたのだ。
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