彼女は僕を「君」と呼ぶ
「...どうしてだろ」

心臓が煩い程に跳ねた。彼女はどうしてそう思ったのか、此処に居る、それだけの理由?それとも…。

ひっくり返す様な感情をどうにか押し殺すが、顔は熱を持っているのが分かる。

膝の上の腕に口元を押し付けてそっぽを向き、ローファーを指で突いた。

「靴変えたの?」
「お母さんが買ってきたの」

しゃがみ込んでいる今でさえ、上手くバランスが取れていなく見える。

「おれはあれが満島さんだと思うよ」

そんな君を好きになったから。
声は震えていなかっただろうか。

次の日、つま先のすり減ったローファーが彼女の足に収まっていた。

「これが私」と、そう言って。
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