そんな結婚、あるワケないじゃん!
『今から帰る』


午後8時、羽田からLINEがあった。
車通勤だから30分もすれば帰ってくるはず。


「あー緊張するぅぅ…!」


料理の下ごしらえは済んでる。
後は焼きを入れるだけ。


献立は豚の生姜焼きにした。
大根と水菜とツナのサラダに、冷奴と枝豆とチーズ鱈のおつまみ付き。


羽田は何と言ってくれるだろう。
喜んでくれるだろうか。


「その前にきちんと話しておかないと……」


今朝会った早見さんは副社長さんで、既婚者だってこと。
散歩の途中で偶然出会って、少し話をしてただけだってこと。
寝言で名前を呼んだのは覚えてもないし、なんて言ったのか返って聞きたいくらいだ…って。



頭の中で言いたいことを整理して料理をし始める。
香ばしい醤油の香りが漂い始めた頃、カチャ…と玄関ドアのカギが開く音がした。




(帰ってきた…!)


ドキン!と跳ね上がる心臓。
ドキドキと胸を震わせながら、リビングに続くドアが開かれるのを待つ。



カチッ。

ドアのバーが下がって隙間が空く。
その隙間を睨む様にしてた視界に現れたのは………



「ペソっ!!」


「キャン!キャン!」


えっ⁉︎ どうして⁉︎ 何でペソがここに⁉︎


驚いたまま固まる。
だって、ここは動物禁止な筈でしょう⁉︎



「ただいま…」


羽田がそう言って顔を覗かせる。
本当は喜んで飛び付きたかったのに、すっかり気が削がれてしまった。

< 103 / 151 >

この作品をシェア

pagetop