そんな結婚、あるワケないじゃん!
「もうっ!もうっ!絶対に許さんっ!!」


バッグの中に衣類を詰めながらブツブツ文句を繰り返す。

羽田の家から自分の家に戻って、簡単な荷造りをしてるところ。





「今夜から羽田の部屋で暮らす」


帰ってすぐに母にそう言った。
一瞬だけ目を見開いた母は、パチッと瞬きをして頭を切り替えた。



「そう!やっと出ていくのね!」


嬉しそうな顔で喜ぶ。
生まれてからずっと家を出たことのない私を心配してる様子は全くもって見られない。


「羽田君に宜しくね!あっ、私からも LINE 送っとくわ!なんて送ったらいい?『末長く宜しく?』」


「……アホだよ。それ…」


羽田的にはウケるかもしれないけど、それって結婚の常套句でしょ。


「だったら何がいい?『近々新居に伺わせて頂きます』?」

「それも変だって!」


私達、別に結婚するワケじゃないんだよ⁉︎ と言い放して部屋に上がった。



「キャン!キャン!」


「ペソ〜〜!!」


あーーん、2日ぶりぃぃぃ!いい子だったぁぁぁ⁉︎



ぎゅっと抱きしめて匂いを嗅ぐ。
犬用シャンプーに混じって香る匂いは、ジャーキーやドッグフードの香り。

この匂いに癒されてきた5年間。
本当に幸せだったのに……。


「連れてけないなんてあんまりひどい話よね……」


甘い雰囲気に流されてしまった。
羽田はどうにもそんなことが上手い気がする。



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