そんな結婚、あるワケないじゃん!
「ほら、水も飲まないと…」


コップが近づいてきて、朦朧としかけてる意識の中で含まされる。


「飲み込んで」


「うん…」


言葉としては認識してるけど、実際は喉すらも動かしにくい。
ストローで飲めと先端を押し当てられても、どうにもそんな気にもならねぇ。


「もう水要らねーよ、苦くないし……。それより寝る…。身体中痛すぎ……」


「あっ、もう一口くらい飲まないと……!」


驚いて何か一言付け加えたみたいだったのに、その後何と言ったかは聞き取れなかった。




次に目が覚めた時、菅野は俺の足元で付き添ったまま眠ってた。
余程退屈だったのか、床には文庫本が転がってる。

少しだけ痛みのとれた腕を伸ばして本を拾い上げた。
カバーの掛かった文庫本は、菅野自身が勤めてる本屋のものみたいだった。



『イジワル上司と契約結婚』



「…何だこれ……」


タイトルに呆れつつも中身を広げた。
いつぞやバイブルにしていたと言ってた恋愛小説みたいだ。



『10日間限りの同居を命ずる!』


1ページ目のセリフがこれだ。

どんだけな上司だよ…と呆れながら、実に羨ましい話だとも思う。


(…そうだよなぁ。自分が病気の時は確かに誰かが側にいると気が休まるしな……)


こんな奴でも……と、寝息を立てて眠ってる菅野を見た。

緩くてふわっとカールした髪の毛の隙間から見える頬は、ほんのりとピンク色にメイクされてる。
普段なら少し青白い肌も健康的に見えるのはそのせいか。

細く入ったプリーツスカートの裾からは、アンクレットをした脚が伸びてる。
俺が贈ったやつだよな…と確かめて、ほぉ…っと深く息を吐いた。

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