アタシ、好きって言った?
僕と彼女
「来るわけないよな」
大通りを行き交う車を眺めながらそう思った。
時計を見ると伝えた時間から2時間経っていた。
「何やってんだろう。何であんなこと言ったんだろう」
自分で自分が分からなかった。
酔った訳じゃなかった。
ただ、本当にまた逢いたいと思ったんだ
「帰ろうかな。スロットでもやりに行くか」

そう思った瞬間。

「ゴメン、ゴメン!ママに用事頼まれちゃって!タクシーから見たら立ってるんだもん、ビックリしたよ」
彼女が笑いながら手を掴んできた。

涙が出た。本当に涙が出たんだ。

「どうしたの?どこ行こっか?」
彼女は笑っていた。
「あっ、うん。何か食べ行く?」
「よし!お姉さんがおごってあげる!」
あっ、歳を誤魔化したままだ・・・
「あっ、実はね・・・」
歳を伝えようとした。
「何か聞きたくない!いいから行こう!」
彼女はヒールの音を響かせながら腕を掴み、アーケードの中へ僕を連れて行った。
「僕、シンイチって言うんだ」
「アタシはねー」
「ナツミちゃん?」
「そうそう!アドレスで分かった?」
「うん」
「ナツって呼んで!あっ、焼肉屋さんだ!よし!焼肉食べよ!」
店内はまだ客の入りもまばらだった。
「何がスキ?アタシねー、タンとロースと冷麺!」
「同じでイイよ。あとビール飲もうかな?」
「よし!お願いしまーす」
オーダーが終わると彼女が言った。
「ねー、何時から待ってたの?」
「メールした時間から。9:30かな?」
「来ないと思った?」
彼女は笑っていた。
「うん。だって・・・こんなの初めてだから」
「そっか。実はねー、3回見に行ったんだ。待ってるかなーって」
「えっ!そうなの?」
「3回共立ってるんだもん。行かなきゃ悪いかなーって思って。あっ、来たから食べよ!」
彼女は美味しそうに食べていた。
「これも食べて!男の子はたくさん食べなきゃ!」
緊張していたせいかビール1本で酔いが回った。
「これからどうする?」
「ホテル行きたい」
「じゃあ、昨日とは違うとこにしよっか?アソコ古いし」
そう言って彼女は笑った。
僕も笑った。

ホテルに着くと昨日とは違い僕は積極的だった。
もう逢えないなら後悔しないようにと彼女を抱いた。

「あのね・・・実は一つ嘘ついてた」
「何?」
彼女は僕に背を向けた。
「実は28歳なんだ。昨日サバよんだ」
「なんだーそんなことか。じゃあアタシお姉さんじゃないね!よし!シン君だな!」
「怒ってないの?」
「怒ってないよ。ねー、キスして?」

僕と彼女はいろいろな話をした。
東京でバンドメンバーが亡くなってバンドがダメになったこと。
実家に帰省し毎日退屈していること。
彼女はあまり自分のことを話さなかったけど、何度も付き合っては別れた元カレのことを少しだけ話し、付き合ってた時にできた借金を返す為に風俗の仕事をしていると語った。
「アタシ毎日パパとママに嘘ついてるから」
そう言って彼女は泣いた。
< 2 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop