キミが欲しい、とキスが言う

馬場くんは納得していない風だけれど、言葉が思いつかないのか、口を開こうとしてはまた閉じてしまう。
口下手なのは間違いないんだろうな、と内心おかしくなりながら、腕を離してほしいという意味を込めて、彼の胸を軽く押した。

その時だ。
私の体をふわりと大きな体が包んだ。

予想外の状況に、訳が分からないまま、彼の思いのほか速い心音をTシャツ越しに聞いた。


「分かりました。橙次さんは関係ないでいいです。で、返事を下さい」

「返事って、付き合いませんかってやつ?」

「そう」

「馬場くんいくつよ。私なんかと付き合ってどうするの」


思わず笑ってしまう。
水商売の女と付き合いたいなんて、本気で思う男がいるのかしら。
単純に体が欲しいだけじゃないの、と疑うのは当たり前でしょう?


「年は三十一。他には何が知りたいですか?」


真面目に返されてちょっと驚く。
まあ年下だろうとは思っていたけど、二歳しか違わないのね。もっと若いかと思っていた。


「三十一なら、ちゃんとした人と、結婚を前提にしたお付き合いしなさいよ」

「だから告白してるんですけどね。俺は、あなたといずれは結婚したいと思ってます」


それはあまりにも、荒唐無稽な話に思えた。
子どものいる女と結婚したいってどうして思うの?
そこまで好きだと言われるほど、馬場くんと話をした覚えもない。

ただ熱に浮かされたように女が欲しいだけなら、一晩だけで満足する?

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