キミが欲しい、とキスが言う

 最近の馬場さんは、表情が豊かになった。というのが、俺、数家光流の見解だ。


「橙次さん、この煮汁しょっぱくない?」

「ああ? そうか?」

「すっかり煮詰まっちゃってますよ。どうすんですか、これ、アイボリーに持っていくんでしょうが」

「別に約束してるわけじゃないから、まずいんなら捨ててくれ」

「まずいとは言ってません。味取り直してください」

「お前がやればいいだろ」

「俺は今別の仕事で忙しいんです」


表情が豊かになったことに加え、態度も以前より分かりやすい。
何が原因かは知らないけれど、今はどうやら店長に不満があるらしい。

最近の、馬場さんの店長に対する態度には敵意がむき出しだ。

そもそも、夜番で馬場さんが出てくるのも久しぶりだ。
昼番だった店長がずるずる居座っているので、珍しく従業員が全員そろっている。


「幸紀がでてきたなら」と仲道さんと高間さんはすでに近所で深夜までやっている飲み屋の【粋】に予約を入れている。
ここのところの不審な動きの顛末を、直接聞けるのかと俺も楽しみだ。



< 179 / 241 >

この作品をシェア

pagetop