キミが欲しい、とキスが言う
カーテンを通しても伝わる夏の朝日。肩に感じるずしりとした重さに目を開けた。
「ねぇイチくん。賭けようか」
俺の名前は仲道一(なかみち はじめ)。この名前を“イチ”と呼ぶのは妻の瑞菜(みずな)だけだ。
横を向くと髪の毛が頬に刺さる。いつの間にこっちのベッドに入ってきたのか。もはや腐れ縁ともいうべき彼女は寝起きのぼさぼさ頭で俺の肩に頭をのせていた。
瑞菜の体はホコホコに温かい。邪魔するやつが起きてくる前に堪能するのもアリかもしれない。
「おはよ、瑞菜。朝から何?」
手を伸ばして腕枕をし、折り返した手で頭を撫でると、瑞菜は楽しそうにくすくす笑った。
「今日は結婚記念日です。ちなみに去年の賭けは私の勝ちでーす。今日はイチくんのおごりね」
ああ、そうか。結婚記念日。
最初に生まれてくる子供は男か女かで賭けたのが始まりで、俺たちは毎年結婚記念日に何かしらの賭けをしている。
去年は、“果たして店長は今年中に結婚するか”だった。
その時点では店長はフリーだったので、俺の方に分があると思っていただけに、なんだか裏切られた気分だ。
「ね。今年は何で賭ける?」
キラキラした目で覗き込んでくる瑞菜の頭を捕まえて、キスをした。そのままもぞもぞとパジャマの中に手を入れて背中を這わせる。