居場所をください。
それから佐藤は美鈴と仕事に向かい、俺はまたひたすら書類とパソコンとの戦い。
少しでも早く帰れるために必死でな。
そして目にする『KOHARU年間スケジュール』。
つい最近CDデビューしたばっかで、来月はまさかのバラエティ尽くし。
……歌手契約なのに、なんだこれ。
その後もCD発売予定は来年春までなく、ライブの予定も一切なく
テレビはバラエティ以外0。
ラジオは地方のが1本。
なんなんだ、これは。
「山村、ちょっとこい。」
「はい。」
さすがに美鈴みたいなスケジュールを組めとは言わない。
それでも、これじゃ小春が可哀想だ。
「あの、なにか?」
「なにか?じゃねーよ。なんだよこれ。」
「小春の仕事のスケジュールです。」
「そんなの見りゃわかるわ。
なんでこんなバラエティばっかなんだよ。小春は歌手だろ。」
「まずは知名度を、と思いまして」
「小春はオーディションで歌で勝負をしたいと言った。
それはお前との最初の打ち合わせでも言ったろ。
美鈴を目指してここに来た、と言ってただろ。
小春とはそういう約束で契約をしてんだよ。
小春は今新人だから文句言わないかもしれないけど、これじゃ絶対に長持ちしねーよ。
一年間もこんなこと続けさせる気かよ。
知名度をあげたいならほかにもっとやり方あるだろ。
CD出したら宣伝費をかけてでも宣伝するとか、音楽番組に出す、CMに使ってもらう、なにかの主題歌に採用してもらう、
バラエティだけじゃねーだろ?」
「…でも、そういう仕事は一切声がかかっていなくて」
「声をかけてもらうまで待ってるつもりか?
じゃあお前はなんのためにいるんだよ。
ただの小春の窓口か?ちげーだろ。
チーフマネのお前が売り込まねーと、声なんてかかるわけないだろ。」
「……はい。」
「とにかく、こんなのにサインはできねーよ。
作り直してこい。期限は1週間な。」
「え、でもそんなすぐに…」
「取れるよな?
実際、佐藤はそれでいつも調整してくるんだよ。
しかも半日で。
入社6年の佐藤が出来て、入社15年目の山村にできないわけないよな?
わかったらさっさと仕事とってこい。」
そういうと山村は頭を下げてデスクへ戻った。
……本当は俺もこんなこと言いたくねーけど。
地位的には俺の方が上だけど、年齢的には6歳も山村のが上。
年上相手は俺もやりにくくてしかたねーわ。