わたしは元婚約者の弟に恋をしました
 短いショートヘアの髪の毛の毛先の揺れが止まる。その髪の毛の動きが止まる。その頬は白く、走ってきたのか、頬のあたりが赤く染まっていた。彼女はその頬の白さに匹敵するような、白のタートルネックのセーターを着ていた。

 彼女の目が雄太を見て見開かれ、続けてわたしを見た。

 その女性の年はわたしよりも上に見えた。二十代後半から三十前半といったところだろうか。

 彼女は何かを言いたそうに口をパクパクさせると、わたしと雄太を交互に見つめた。

「春奈」

 雄太から聞きなれない女性の名前が漏れた。

 彼女は唇を結び、雄太を決意を込めたまなざしで見つめる。

「わたしと結婚してください」

 長い髪の毛がまっすぐに地面に向かう。

 その言葉でわたしは我に返る。だが、現状が呑み込めないでいた。

 なぜ、わたしと結婚するはずの、一年以上付き合ってきた彼が、見知らぬ女性にプロポーズをされているのだろう。

 わたしは救いを求め、彼を見た。だが、彼の表情を見て、わたしの心臓がけたたましくなる。

 彼の表情も凍りつき、眉根を寄せて女性を見つめていた。

 どれくらいぼうっとしていたのか分からない。だが、閑静な住宅街に車のクラクションが響き我に返った。

 わたしは思わず体を脇に寄せた。
< 4 / 208 >

この作品をシェア

pagetop