イヌオトコ@猫少女(仮)
手をどうしたらいいのかと悩む。

ちょっかいを出すのは抵抗ないけれど、

相手から来られるとどうすればいいのかわからなくなる。


迂闊なことをすれば今度こそ嫌われる。


「…このままで、いてください、お願い」


「知らんで〜どうなっても」


ふざけてみるが返ってこない。


笑結の抱き締める力が強くなる。

お互いに鼓動が大きくなる。


「……なんか言えよ…」


「………き」


消え入りそうな声に耳を傾ける。

「……うん?」


「いや、やっぱりいいです。忘れてください」


うつむいたまま。


「気になるやんけ」


「なんでもないです、ってば」


「はっきり言え、こら」


わき腹をくすぐりにかかる葦海。

「や、やめて!やめて!ね、猫が好きって、言ったんです!きゃははは!!」



ごまかしの言葉が思い付かなかった。


逃げようともがく笑結。


がっつりとしがみついてくすぐる葦海。


「うーわ!こいつ、ほんま腹立つわ」


「自分だって言わないくせに!」


涙を流して笑う。


「俺は口裂けても言えへんで」



***

「…やっと、笑わしたった」


ふっ、と安心した顔になる。


「…じ、じっちけんしゅう、してみますか?」


一瞬固まる。


「い、嫌ならええで?別に、強制やないし」


自分から言い出しておきながら。

「もーうー!せっかく勇気だして言ったのに!もう知らない!!」


真っ赤になって拗ねるが、好きより言いやすいらしい。


「あのー、すみません、もう駐車場、閉めますよ」


休診の札を掛けたスタッフに声を掛けられ、慌てる。


とりあえず車を出した。


「…連絡先、教えてくださいよ」


「嫌や」


「どうしてですか」


「携帯持ってへんし。家電、黒電話やから」


「嘘だあ!」


すべてが嘘くさい。


「ああ、そうそう、昨日水没さしてもて、エラいことなってんねん」


電話で話すのが苦手だった。


用もないのに掛けても会話が続かない。

メールも返信が面倒だ。


一緒にいれば空気でなんとでもなる。



「嘘くさいなあ」


「いや、ほんまやって」


が。


「あっ、危ない!信号、赤!」


「えっ…」


もちろんスピードはさっきのままで、幸い交通量も少なく、

のろのろ運転の車を周りも警戒し、距離を取ったり追い抜いていた。


なぜか若葉マークは付けていなかった。


がしゃん。

と鈍い音がした。


横断歩道の真ん中でブレーキを踏んで止まった助手席側に、

一台の自転車がぶつかった。


「ええっ!?」


そんなばかな!!と笑結は思った。

「やってもうた!!」


慌てて葦海が車から飛び出す。


「大丈夫ですか!?」


「いてて…。あ、ああ、大丈夫です…あれっ?」


尻餅をつき、顔を上げたのは鳶川だった。


止まっているも同然の車にぶつかるのはやはり鳶川くらいだろう。

「あっ!いて!」


立ち上がろうとして貧血を起こし倒れる。


「おいおい」


「鳶川くん!!」


仕方なくトランクに少しだけ歪んでしまった自転車を乗せ、

念のため病院に運んだ。


***


「軽い打撲で、大したことないってよ、よかったな」


車から降りると途端にいつもの葦海に戻る。


悲しいのか悔しいのか情けないのか、
なんとも言えない表情で口を尖らせ、足と腕に湿布を貼られた鳶川。


夜間の救急に回り、念のために診てもらった。


待ち合いのソファで3人、会計を待っていた。


はたからどんな風に見えるのかな、と思った。


「良くないですよ。僕だけ損な役ばっかり」


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