ピュア・ラブ
20分程歩くと、警備員が配置されていた。もうすぐ神社だ。
アパートを出た時は、とても寒かったが、これだけ歩くと、体も温まった。手袋をしている手が熱くなり、手から外してポケットにしまう。
隣を歩く橘君も同じようで、私が贈った手袋を外すところだった。
「熱くなるね」
人混みが更にすごくなり、歩く速度も遅くなった。
行列に並び、揉みくちゃになる。
両脇には出店がずっと並び、いい匂いを出していた。
毎年、屋台でお好み焼き、綿菓子、あんず飴と買って家に帰っていた。初めて食べたのは、高校生の時だ。バイト代が入り、夏祭りに行った。両親に取られる前に何としても買いたかった。
神社の暗闇は怖かったが、家に持っては帰れず、境内の石に座り、一人食べた。あの時の味は忘れない。
ヨーヨー釣りなどもやりたかったが、クラスメイトに逢うかも知れないという何とも言えない嫌な感じがあり、早々と帰った。
その時に、もう一つ羨ましいと思った事があった。親子が浴衣で歩く姿だった。
洋服も持っておらず、いつも同じ洋服を着ていた。私も大人になったら浴衣を買って着てみようと思ったが、それはいまだに実現していない。
アパートでソースの香ばしい匂いを嗅ぎながらお好み焼きを頬張る。
節操がないようなご飯がとてつもなくおいしい。お好み焼きを食べ、綿菓子を食べる。
口の中に広がる甘い砂糖の塊。唾液がじゅわあと出てくるほどの甘さだ。これが堪らない。しかし今日は橘君と一緒だ。買っては帰れない。まあいい、正月は始まったばかりだ。また買いに来ればいいのだ。
神前に近づくにつれさらに混雑する。両脇の屋台を利用する人と、参拝をする人の波がごちゃまぜになる。
参道は狭く、その中にたくさんの人が入るのだ、それはさながら満員電車のようだった。
橘君の鮮やかなブルーのダウンジャケットはとても目立っていい。私は、それを目印にしている。
彼の背中を見てずっと歩く。すると、橘君の行動がおかしい。キョロキョロとし始め、背伸びもしている。
ずっと隣に並んで歩いていた私がいなくなり、探しているのかもしれないと思った。
ダウンジャケットの裾をツンツンと引っ張る。
「あ、よかったあ、はぐれちゃったかと思ったよ」
やっぱりそうだった。
「はぐれちゃうから」
そう言って、橘君は私の手を握った。
国会の牛歩の様に前に進まない。だけど、全く苦にならなかった。
モモを通じて橘君と親しくなれたが、これからの私はどうしたらいいのだろう。
友達とは一体なんなのだろう。今だ、急に現れた同級生に、戸惑っている。
動物病院を開院している橘君にはモモがお世話になる。だけどそれは具合が悪い時と、健康診断の時だけだ。健康であれば、最低でも年に一回しか病院にかからない。
彼は、今日の出来事を報告するようにメールをくれる。
だけど、そのメールは私からの返事を求めていない。そして、こうして一緒に出掛けるのも橘君の誘いがあるからだ。
何処かに出かけるだけが友達じゃない。相談し、他愛ない話をするのもいい。でもその方法を私は知らない。それに会話もままならない私がいたところで、橘君が楽しめているようにも思えない。
病院は忙しいだろう。年末年始だって入院している子たちはいるだろう。それを考えると、私のような女に時間を割いている場合じゃないはずだ。
アパートを出た時は、とても寒かったが、これだけ歩くと、体も温まった。手袋をしている手が熱くなり、手から外してポケットにしまう。
隣を歩く橘君も同じようで、私が贈った手袋を外すところだった。
「熱くなるね」
人混みが更にすごくなり、歩く速度も遅くなった。
行列に並び、揉みくちゃになる。
両脇には出店がずっと並び、いい匂いを出していた。
毎年、屋台でお好み焼き、綿菓子、あんず飴と買って家に帰っていた。初めて食べたのは、高校生の時だ。バイト代が入り、夏祭りに行った。両親に取られる前に何としても買いたかった。
神社の暗闇は怖かったが、家に持っては帰れず、境内の石に座り、一人食べた。あの時の味は忘れない。
ヨーヨー釣りなどもやりたかったが、クラスメイトに逢うかも知れないという何とも言えない嫌な感じがあり、早々と帰った。
その時に、もう一つ羨ましいと思った事があった。親子が浴衣で歩く姿だった。
洋服も持っておらず、いつも同じ洋服を着ていた。私も大人になったら浴衣を買って着てみようと思ったが、それはいまだに実現していない。
アパートでソースの香ばしい匂いを嗅ぎながらお好み焼きを頬張る。
節操がないようなご飯がとてつもなくおいしい。お好み焼きを食べ、綿菓子を食べる。
口の中に広がる甘い砂糖の塊。唾液がじゅわあと出てくるほどの甘さだ。これが堪らない。しかし今日は橘君と一緒だ。買っては帰れない。まあいい、正月は始まったばかりだ。また買いに来ればいいのだ。
神前に近づくにつれさらに混雑する。両脇の屋台を利用する人と、参拝をする人の波がごちゃまぜになる。
参道は狭く、その中にたくさんの人が入るのだ、それはさながら満員電車のようだった。
橘君の鮮やかなブルーのダウンジャケットはとても目立っていい。私は、それを目印にしている。
彼の背中を見てずっと歩く。すると、橘君の行動がおかしい。キョロキョロとし始め、背伸びもしている。
ずっと隣に並んで歩いていた私がいなくなり、探しているのかもしれないと思った。
ダウンジャケットの裾をツンツンと引っ張る。
「あ、よかったあ、はぐれちゃったかと思ったよ」
やっぱりそうだった。
「はぐれちゃうから」
そう言って、橘君は私の手を握った。
国会の牛歩の様に前に進まない。だけど、全く苦にならなかった。
モモを通じて橘君と親しくなれたが、これからの私はどうしたらいいのだろう。
友達とは一体なんなのだろう。今だ、急に現れた同級生に、戸惑っている。
動物病院を開院している橘君にはモモがお世話になる。だけどそれは具合が悪い時と、健康診断の時だけだ。健康であれば、最低でも年に一回しか病院にかからない。
彼は、今日の出来事を報告するようにメールをくれる。
だけど、そのメールは私からの返事を求めていない。そして、こうして一緒に出掛けるのも橘君の誘いがあるからだ。
何処かに出かけるだけが友達じゃない。相談し、他愛ない話をするのもいい。でもその方法を私は知らない。それに会話もままならない私がいたところで、橘君が楽しめているようにも思えない。
病院は忙しいだろう。年末年始だって入院している子たちはいるだろう。それを考えると、私のような女に時間を割いている場合じゃないはずだ。