ピュア・ラブ
「検査の結果ですが、野良猫だったので、お腹に虫はいました。これは薬で駆除が出来ます。モモちゃんは生後一か月半というところです。自分でご飯も食べられるので、直前まで親と一緒に居た可能性がありますね。まだ、ミルクも必要ですね」
「よかった」

私は、診断結果を話してくれている獣医の顔は見ず、ずっと、モモを見つめていた。

「それから、血液検査も問題はありませんでした。良かったです。ウイルスがあると、病院に定期的に注射を打ちに来なくてはいけなくなりますから」
「よかった、ね? モモ?」
「まだ、見て分かる様に、退院はできません。傷口が化膿している所が何か所かありますし、栄養状態も悪い。一週間はお預かりします」
「一週間……」

そんなに長い事一緒に暮らせないのか。まあ、この先ずっと一緒に居られるのだ、この一週間はモモにとって大事な期間。それはぐっと我慢しよう。
私は、離れ難さにその場を立ち上がることが出来なかった。

「黒川さん、病室まで一緒に行きますか?」
「え?」
「モモちゃんを安心して預けて下さい」

いつまでたってもモモを離さない私に痺れを切らしたのだろうか。獣医は、人懐こそうな優しい顔で笑った。
そう言えば、私は人の顔さえ見ない。いつでも斜め下を向き、人とは、目を合さないで来た。
だが、獣医とは病院に駆け込んだ時から、顔を上げて話しをしていた。それだけ、必死だったのだろう。
私は、獣医に促されるまま、診察室の奥に入って行った。
病室と呼ばれる所には、犬と猫がゲージの中に入ってじっとしていた。
具合が悪いのだろう。チラリと私を見た目に生気がなかった。すぐに視線をずらすと、目を瞑ってしまった。
モモの「病室」は子猫だからなのか、少し小さなゲージだった。
表札の様にゲージの外には、「黒川 モモ」と名前のプレートがついていた。
私は、思わず、そのプレートの名前を撫でた。


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