ピュア・ラブ
「さて、右か、左か、真っ直ぐか、どっちに行こうかな」

アパートに帰るなら、工場を左に曲がればいい。でも一週間の仕事終わりの金曜日は好き勝手、気の向くままに帰る。仕事のことを考えず、好きな時間に寝られるし目覚まし時計だってセットしなくていい。こんなに素敵なことがあるだろうか。

「お疲れさまぁ」
「あ、お疲れ様でした」

こんなところで突っ立っていれば誰かしらに会うに決まっている。挨拶も面倒だ、早くここを立ち去ろう。

「真っ直ぐに行こう」

通勤に使っている自転車に乗り、まっすぐに行くと決めた道を走る。
この街に来てどれくらいたっただろう。日々の流れが全くつかめない。
私は、自分の決めた世界に住んでいる。他人はおろか、親さえもそこには踏み込ませない。
カレンダーを新調する年末に、やっと年が終わることを認識する。
今のアパートは住み心地がいい。
更新の度に引っ越しをしようかと考えるが、費用もばかにならない。
学生の時は大学の近い場所に住んだが、今の住んでいるところは、二回目の引っ越し場所だ。
就職活動をしていた時、会社や職種ではなく住む場所を決めてから、通える範囲の職場を絞った。
海に一度も行ったことがなかった。
私は、好きか嫌いかも分からないけれど、海があるこの場所を選び、アパートを決めた。
海の近くだと、シーズン中に騒がしい、洗濯物が塩臭いなど、色々と大変なこともあるようだった。
それを考慮して、海まではバスで20分ほど離れた土地に住まいを決め、今のアパートにしたのだ。時折、風に乗って海の匂いがする。それがとてもいい。
海から離れているとはいえ、夏のシーズンでは、車の渋滞があり、クラクションの音が賑やかだった。越してきてから一度も海に行っていないが、そのうちに足が向くだろう。私は、以外と、ここが気に入っていた。
アパートを見つける時間がもったいない。そんな時間があるなら、本を読み、気になることを勉強する時間にあてた方が、よっぽどいい。
工場に勤めるのも、仕事を見つけやすく、人とのかかわりを持たずに仕事ができるからだ。
ただひたすら、自分の与えられたレーンにいればいい。
私は道端で死んでいても気に留められないくらいの存在でいたい。それが願いだ。
< 2 / 134 >

この作品をシェア

pagetop