ピュア・ラブ
会計を済ませ、自転車のカゴにモモが入ったカゴを乗せ、私は、自転車を押して歩く。
会計は、用意した金額程ではなかったが、二週間の入院と治療は、15万円近くになった。
もっとかかるかと思ったが、嬉しい誤算だ。
カゴに入っているモモが心配で仕方がなく、何度も自転車を止めては、モモの様子をみた。
アパートに着き、モモが入っているとは思えない軽さのカゴを抱え、家に向かう。
すると、厄病神が立っていた。
そう言いたくないし、思いたくもないが、母親だ。

「茜、どこ行ってたの?」

そんなこと、あんたに言う必要があるのか。
私は、キッと睨みつける。

「なあに? 猫? 猫飼うの? 金食い虫なのに」

あなたの方が金食い虫だ。
私が抱きかかえているカゴを覗き、猫が入っているのが分かると、そう言った。
相変わらず、品のない服を着て、きつい香水をつけている。どうしたらそういう組み合わせで服が着れるのだろう。鼻が曲がりそうな匂いだ。
猫は臭いで相手を確認する。これほどまでに強烈なにおいのする人間と、遠ざけなくてはいけない。

「ねえ、茜、いち、いちでいいの。お願い」

真っ赤なマニキュアをした指を一本立て、「いち、いち」という。それは、一万円貸せということだ。
男に甘えるかの様なねこなで声で、私に金の無心をする。返すつもりもない金を「貸して」という浅はかさ。下品極まりない。
私は、アパートの鍵を開け、モモのカゴをそっと玄関に置くと、ドアを閉めた。
財布から、千円札を十枚取り出すと、天に向かってばらまいた。

「あ、飛んじゃう。ありがとね、茜」
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