婚約者は高校生
「いつもこんなことしてるんですね」
車に乗り込むと彼女がつぶやいた。
「こんなことって?」
俺は張り付けた笑顔そのままに彼女の横顔を見る。
彼女の言う「こんなこと」は多分、ここまで手を引いて歩いてきたことだろう。
…と、思っていたのだが。
「その顔です」
「は?」
こちらに顔を向けて放った彼女の言葉に一瞬にして俺の仕事モードが崩れ、隠していた不機嫌さが表に表れる。
顔?
俺の顔の何がおかしいっていうのか。
ジロリと睨み付けると彼女は満足気に口の端を上げる。
「あ、いつもの多賀さんに戻りましたね」
「いつもの…ってなんだ」
「この数日間見ていて思ったんですけど…多賀さん、会社にいる間はいつも笑顔でしょう?よく疲れないなって思ってたんですよ」
へぇ。
少しは俺を見ていたのか。
「仕事を円滑にするためには必要なことだ。…それに女はそんな俺が好きみたいだからな」
女ってのは憮然とした男よりも笑顔で対応してくれる人の方が好きだろう?
たとえ俺の本性を知っていたとしても、その対応をされた方がいいはずだ。
俺の言葉に彼女は考えを巡らせるように宙を眺めてから、こちらをまっすぐに見つめて口を開いた。
「…確かにそうかもしれません。でも、私にその笑顔は不要です」