婚約者は高校生
「…こういう所って一人で来ても楽しくないでしょう?」



「一般的には…そうだな」


一人で来たいと思う人も稀にいるとは思うが、普通は誰かと一緒に来る場所だろう。



「水族館に誰かと来るのは久しぶりなんです」



……。
まあ、社長令嬢だしな。
瀬野尾社長の家族構成は…確か、他に息子が一人いたか。

息子は社長補佐として会社で働いていると聞いたことがあるな。だとしたら、これから会う機会もあるだろう。

奥様…はいたか?いなかったか…まぁそこまで気にしたことがなかったから覚えていない。

ともあれ親は忙しいだろうし、年の離れた兄が休みにこんなところに来るとは思えない。
それに、仮に彼女がいれば妹よりそちらを優先するだろうしな。



「友達と来たりはしないのか?」



「友達…」



そう呟いた彼女の顔にわずかながら陰りが見えたのは気のせいだろうか。
心配したのも束の間、彼女はこちらに向かって満面の笑みを向けた。



「そうですね、転校してきたばかりなので…まだ遊びに行くような関係の子はいません」



「へぇ…そうなのか」



笑って何かを誤魔化そうとしているのが丸わかりだ。
いったい何を隠しているのか、その瞳から探ろうとすると、


「えっと…次、見に行きましょう。どんな魚がいるか楽しみです」



それ以上触れてほしくないのか、彼女はくるりと俺に背を向け、歩き出した。



…逃げられたか。

それにしても…転校してきたばかり、だと?
彼女の様子から察するに転校せざるを得ない何かがあったのは間違いない。
まぁ、言いたくないのなら、別にそれでもかまわない。
誰しも言いたくないことはあるしな。
気にしても仕方ない。

先を進む彼女の背を見ながら、俺はひとり納得するようにうなづいた。









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