魅惑な彼の策略にはまりました
「寒いけど、物食うとあったかいよな」


3月の頭はまだ寒い。日差しだけがわずかに春を意識させてくれる。

パンはふかふかで美味しかった。初めてのブーランジュリーが当たりで、嬉しい。

焼きたてのシナモンロールをかじり、コーヒーを一口。
たったこれだけで至福を感じる。


「美味しい」


「四季のちょっとちょうだい」


子どもみたいに言って、宗十郎が顔を出してきた。
私の手の中のパンをぱくりとかじる。


「何すんのよー」


「いいじゃん。俺のもあげるよ」


宗十郎が食べかけのオリーブ入りのバケットをよこしてくる。
普通の男なら嫌だけど、同性レベルで仲良くしてきた宗十郎なら、不思議と食べかけも嫌じゃない。いつも“招き猫”でお鍋や大皿料理を一緒につついているせいかな。

裏を返せば、それは宗十郎を男性として意識していないってことなんだろうけれど。

バケットをちぎって食べ、ふふっと笑ってしまった。


「美味しい。あと、外で食べるとなんか楽しい」


こんなほのぼのランチは久しぶりだ。
誰かとピクニックなんて、子どもの頃以来じゃない?

今いる空間は確かに大都会ど真ん中なんだけど、普段生きる社会とは隔絶されている。
こんな非日常、不思議で素敵だ。
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