わたしの朝
最期まで
「もう十分頑張ったよ」
誰かがそう言ってくれてる気がした。
目の前にお花畑が広がる。
綺麗~。
言葉にならずにはしゃぎ走り出す私。
追ってくる彼。
こんな風に、思いっきり走ってみたかった。
私、いつの間にこんなに元気になったの?
そんな疑問はすぐに風に飛ばされて消えた。
楽しくて楽しくて。
彼と出逢ったばかりの胸がキュンとする感じと、あのドキドキ感が蘇る。
それから、長い間付き合って得た安心感もちゃんとある。
私が多すぎるほど作ったお弁当を、彼は嬉しそうに頬ばっている。
太陽はぽかぽか。
風はそよそよ。
花はゆらゆら。
景色はきらきら。
あなたはにこにこ。
私もにこにこ。
「…い」
「…いっ」
「愛っ!」
彼の声。
真っ白な天井。
どこかで嗅いだことのある匂い。
手は、しっかり彼に握られている。
「真広…?」
彼の名前を呼ぶと、彼は安心したように笑った。
涙でぐしゃぐしゃの顔で笑いながら、穏やかに私の頭を撫でた。
夢…だったの?
でも、まだ夢の中にいるみたい。
泣かないで。
ふわふわする。
「真広、ありがとう」
うん、と彼がうなずく。
「ねぇ…」
ん?と彼が耳を近づける。
「愛してるよ、真広。」
なんだよ急に、と照れくさそうに彼が頬を赤らめる。
ピピッピピッピッピー
ピー…。
無機質な機械音が部屋中に響く。
「いっ」
「愛ー!」
「俺も、俺も…愛してるよ、愛…」
その瞬間、その一言で、私はありとあらゆる呪縛から解かれた気がした。
死こそ救いなれ。
誰かが言っていたように。
私は覚めることのない夢の中に落ちていった。
でもね、ちゃんと聞こえたよ、最後の“愛してる”。
私を愛してくれてありがとう。
たくさんの幸せをありがとう。
あなたが、これからもずっと、幸せでいられますように。
彼は、もう目を覚まさない彼女の胸に、強い強いキスをした。
“一緒だよ”の約束。
< 16 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop