母と妻と女の狭間で・・・ 留学時代編
「Ashはこの事知らないよね?」

 と、聞いてきた。

私は、

〈あ!やっぱり!〉

 確信した。
 
〈晴美は、もともと移動するつもりは
無かったけど、あさひとなんかあって、
勉強が手につかなくなったから、
移動を決めたんだ〉

 私は、晴美に同情することはできなかった
けど、晴美の気持は痛いほどよくわかった。

 その晴美の辛い恋心に触れた時初めて、
私の心は涙に震えた。

 と、同時に、降り始めの雨のように、
大粒の涙がひとつ、私の頬を伝った。

 晴美が、その時の私の涙を見た瞬間、
一瞬表情がこわばり、次に、後悔の表情が
水面に落ちた一滴の油のように、じわーっと
広がって行くのを、私は見逃さなかった。

 きっと、その時の、晴美の後悔の表情を
見た時、私の顔は、漆黒の闇の中にあったに
違いない。

 
 2人で、晴美の出発を見送って、寧子が、

「行っちゃったね」

 と、一言。

「うん」

 私も、そう返事して、そのあとは無言で、
学校に引き返した。
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