お願いだから、つかまえて
「理紗、こっちこっち!」
香苗の明るい声はいつでもざわめきをすり抜けて耳に届く。
暖色照明の下、手招きする香苗は今日も惚れ惚れするほど綺麗だ。
「ごめん遅くなって! 山園さんもこんばんは…ってあれっ…」
「どうも。」
香苗と山園さんは並んで座っていて、バカップルか! と咄嗟に思ったけれど、そういうわけではなくて、向かいの席に佐々木くんが座っていたのだった。
「この店、佐々木くんが教えてくれたからさ。せっかくだし一緒にどうかなと思って。」
「こないだあたしの腕時計のことでもお手間かけさせちゃったからお礼もしたかったしー」
二人が似たような笑い方で屈託なく言う。
山園さんと佐々木くんは格別親しくなったというわけでもなさそうだし、こんな…ラブラブなカップルと一人一緒にいて、居たたまれなくなったりしないんだろうか。
「そっか、うちから割りと近いということは、佐々木くんちからも近いということになるのか。」
「ですね。」
…居たたまれないどころか普通にリラックスしている。
人見知りっぽい雰囲気を出しておいて、案外図太いんだよなー。誘われたら、酒とうまいものがあるところへなら何処にでもふらっと行っちゃう人なんだろうなー。
「はーお腹空いた。何がおすすめですか?」
「ソーセージがおいしいんですよ、ここは…」
期待通り、佐々木くんは相変わらず楽しくもなさそうな声で、だけどすぐに教えてくれる。