お願いだから、つかまえて
「しばらくって。29だよ?」
「そうだけど…」
「何考えてんの? 矢田さん。」
あ、これは、遠まわしな山園さんへのプロポーズの催促だな。
人の人生、うまく使ってくれちゃって…まったく。
「待ってくれって言われてるしねえ…」
「矢田さんて、本当に良い人だと思うけど、そこだけは信じらんない。」
「うーん…でも職場同じだから、忙しいのは嘘じゃないってわかってるしね。」
佐々木くん…私の恋愛話にもさらさら興味ないんですね…何食わぬ顔でビールおかわりしてるし。それ何杯目なの、一体?
いいんです。わかってます。何か期待するほうが、おかしいし。
ここで長戸さんの話とかしても、しょーもないな。
「…ま、私の話はいいからさ…」
話を、幸せエピソード満載の二人に戻した。
ぱーっと飲みたい! と思っていたわりに、私はあんまりすっきりしない気分になっていた。
佐々木くんは会話に参加したり、しなかったりして。
そろそろ出ようか、という頃には、夜10時を回っていた。
あー飲み足りない、と思いながら、店の前でじゃあまた、なんて挨拶をしている時に、ふと佐々木くんと目が合った。
あっ。
今、おんなじこと考えてる…
佐々木くんも、そう思ったんだろうか?
するっと言った。
「…飲み直します?」
「飲みたい!」
間髪入れずに叫ぶと、えー何何? あたしもー! と香苗がはしゃいだ。
となると山園さんも、と、皆で終電の時間を確認して、お酒なら一通りありますよ、と言う佐々木くんの家に歩いて移動することになった。