お願いだから、つかまえて

「あら、あれ、おいしかったわー。」
「佐々木怜士と申します。」
「いつも理紗と仲良くしてくれて、ありがとうね。」

仲良くって。やめて、お祖母ちゃん…

「また何か作ってくださったら嬉しいわあ。」
「ああ、是非。」
「この子もね、料理上手なんだけどね…」
「ああそれは話していてわかります、なんとなく。」
「でもね、私が育てたでしょう。年寄りくさいご飯しか作れなくてね…」

悪かったな!
最近香苗を連れてきていなかったから、お祖母ちゃんは久しぶりに若い人と話せて嬉しくて仕方ないのだろう。

「色々教えてあげてくださいねえ。」
「はい、是非。」

佐々木くんは相変わらずつまらないんじゃないかってくらいの顔と声で返事をしているけれど、そんなことを気にするお祖母ちゃんではない。

「ほら、お祖母ちゃん、佐々木くんも忙しいからさ…」
「いや、今日は暇ですよ。」

方便だよ! 察せよ!
…いや、何かを察せというのは、佐々木くんには無理な話だ。

「あら、お暇なの? じゃあちょっと上がっていってもらえばいいじゃない、理紗。」
「いや、お祖母ちゃ…」
「お昼でも召し上がっていって。といってもこれから作るのでちょっと待って頂かないといけないけどね。」
「あ、じゃあ僕、何か作りましょうか。」
「は?!」

目を剥いて佐々木くんを見ると、何も特別なことなんか無いですけどって顔をしている。

佐々木…本当に誰にでも頓着ないな…
昨日はよく知らないラブラブカップル、今日はよく知らない老人と食事か……

あら嬉しいわねえ、などと言いながら、いそいそとお祖母ちゃんは玄関に向かっていき、佐々木くんが飄々とそれに続く。

ああ、一人で反省とか熟考とか、したかったのに…

私は頭をがっくりと垂れた。
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