お願いだから、つかまえて
また来てねとしきりにお祖母ちゃんに言われながら、佐々木くんが帰ったのは夕方になってからだった。
もっぱら喋るのはお祖母ちゃんで、佐々木くんはあのまま、聞かれたことには答える以外は、はあとかまあとか別にとか相槌を打つだけだったけれど、しっかり、うちにあるもので美味しいお昼ご飯を作ってくれた。
そして作り方を聞かれたら口調は変わらずも丁寧に説明してくれた。
お祖母ちゃんがやたらと突っ込んで佐々木くんに聞くので、私まで佐々木くん情報に詳しくなってしまった。
年の離れたお姉さんと、二歳年下の弟がいること、ご両親は千葉の方に住んでいるので自分は大学生の時から東京で一人暮らしをしていること、大学はかなり優秀な私大の理工学部を、特待枠の奨学金を受けながら出たこと、お姉さんとご両親とは疎遠だけれど、弟とはたまに二人で飲みに行くこと、予想通り彼女はしばらくいないこと、休日は専らパソコンに向かっているか本を読んでいるか料理くらいしかしないことーー
全く喋りたいような空気は出さないのに、聞かれれば濁すでも隠すでもなく、俯きがちなまま、何でも開けっぴろげというくらいに話す。
このまま夕飯でもと言いかねないお祖母ちゃんを制して、なんとか佐々木くんを玄関まで送り出し。
じゃあまた、と言って、名残惜しそうにするでもなく車に乗り込んで佐々木くんは帰っていった。
どっと疲れて数時間ぶりにスマホをチェックすると、修吾からラインが入っていた。
『明日、どうする?』
明日、日曜日か…
一晩明けて普通に修吾と会う自信なんかこれっぽちもなかった。
『ごめん、体調があんまり良くないから、家で寝てるね。』