お願いだから、つかまえて
「三年経ちますが、いかがですか、仕事の方は?」
人事部長が人好きのする笑顔で尋ねる。
たかが派遣社員のことで人事部長が出てくるのかと、派遣入社前の面接では驚いた。
派遣されたのはここが初めてだから、これが一般的なのかどうかわからない。
とにかくそれ以来、一年に一回、更新の時期になるとこの人に会うことになって、今日が四回目だ。
「はい、仕事もやりやすいですし、とても充実しています。」
初めて会った時より太って、髪が薄くなったかもしれない。
このおじさんはたぶん、ポーズでなく私に好意的でいてくれているので、会う時はいちいち大事な時だけれど、あまり緊張せず、思ったように話せる。
「宮前さんね、毎年のことだけど、大変評判いいですよ。」
「ありがとうございます。」
「残業もねえ、嫌がらずにしてくれると。それでいて無駄はないしね。仕事は的確で早く、コミュニケーションも取りやすいと。営業部の奴らは口を揃えていますね。」
…褒められすぎて、むず痒い。
「コミュニケーションを取りやすいのは、皆さんのお陰です。本当に皆さんよくして下さって、感謝しています。」
「ただ、派遣さんにしては、少し負担が大きすぎますね。内容的にも、量的にも。それでも居心地はいいですか?」
「はい、とても。」
「それはよかった。我が社としても、貴女は大変な戦力で、みすみす手放すのは損失だと考えております。
それで、宮前さんさえよろしければ、このまま正社員になって頂きたいと考えております。仕事内容は今とほとんど変わりません。ただもっと色々任されるようにはなると思います。貴女なら問題なくできると、営業では判断しているようですね。」
「…有り難い、お話です。私としましても、是非そうさせて頂ければ、…幸い、です。」
一瞬、言い淀んだけれど、やっぱり本心が出た。
部長は相好を崩し、ざっと収入面や、福利厚生などの細かい説明を書類を渡しながらしてくれ、ひとまずこれを持ち帰ってよく読むように、と言って、それで面談は終わりだった。
修吾と話さなくちゃ。仕事のことも、…二人のことも。
会議室のドアを閉め、大きく息をついてから、スマホを取り出したら。
『今夜、会える?』
と、修吾のほうから、ラインが来ていた。