恋のお試し期間



『俺、電話するって言わなかったっけ』
「すいません。友達と喋ってたらこんな時間になって」

すっかり眠る気満々で布団に入りうとうとしてきた12時を過ぎ。
側にあった携帯が震えて。見ると佐伯からのメール。
そこでハッと我に返り慌てて電話をかける。

里真を責めるような文章ではなかったがでてくれた電話の声は
さすがにトーンが低かった。怒鳴ったりはしなかったけれど。

『本当に友達、なんだよね?』
「はい。友達です」
『そう。仲がいいんだね。女の子同士だと話も弾む…しね』
『そうなんです。つい色々と愚痴っちゃって』
『愚痴?……俺のこと、とか?』
『え!?ま、まさか!』

そんなつもりじゃなかったのに。彼を傷つけてしまったろうか、
里真は不安になりながらも何とかテンションを回復させようとする。
けれどソレに反して相手の声のトーンが低くなっていくから余計焦る。

『まだ、俺の事疑ってたりする?そんな遊んでるように見えてた?』
「そういう訳じゃないけど。でも。…心配になります。慶吾さんかっこいいし」

彼目当ての客も多い。中には親しげに彼に話しかける人もいる。
誰にでも優しく明るく接するから。
それが商売の為なのか彼の本質なのか両方なのか。里真にはよく分からない。
とにかく昔から頼れて優しいから。

だから弟に自分の時だけ彼は違ってたといわれてもイマイチピンとこない。

『そっか。だから何時まで経っても正式な彼氏になれないんだね』
「え」
『お試し彼氏のままふられちゃうのかなって思ってさ』
「ふ、ふるとかそんなの。私の方こそ」
『俺は里真が好きだよ。大好きだ。ずーっと昔からね。お試しでも君の彼氏になれて
嬉しいと思ってる。出来ればこのまま本物の彼氏になりたいんだけど、難しいかな』
「も、…もう少し、時間をください」

気持ちの整理とこれがドッキリじゃ無い事とを頭の中で処理できる時間を。

『いいですよ。好きなだけ俺を試してください』
「…慶吾さん」
『だけどあんまり焦らされたら思い余って襲ってしまうかもね』
「え」
『なんてね。それじゃ、また明日もお互いに仕事がんばろう』
「はい。…じゃあ、また」

とんでもない事を言われたような気がしたけれど、里真は電話を終える。
携帯を机に置いてベッドに寝転ぶとあっという間に眠りについてしまった。
佐伯との事を考える時間は沢山あるはずなのに。

何故か答えが出ない。

つかの間の恋でも条件がいいのだからそれに飛びつけばいいのに。
やっぱり元に戻れないというのが大きいのだろうか。

「里真。やっぱあんたちょっと太った?顔パンパンだけど」
「これは顔がちょっと腫れただけ。断じて太ってないです」
「姉貴気をつけろよ。せっかく佐伯さんと付き合ってるんだしデブったらお仕舞いだぞ」
「あら。あんた佐伯さんと」
「とにかく私は太ってません!いいから!会社行く!」



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