恋のお試し期間

ほっとけーき



「作って欲しいって言ったのは私ですけど。なにもこんな本気ださなくても」
「彼女からのリクエストだよ?手抜きなんてできません」

里真にとっての休日は佐伯にとっては特に忙しい日。
無理をいって休んでもらったり満員で席を待っている間構ってもらうよりは

事前に席を予約しておいたほうがいい。
と、思って前日に彼に電話して席を予約した。
実際予約が出来るのかは分からないけど、彼は了承してくれた。

あとランチにはデザートが欲しいとオネダリ。

「……惨めになるじゃないですか」

以前自分が彼のために初めて作ったパンケーキ。
彼からも作ってもらおうと軽い気持ちだったのに。

忙しいだろうからトッピングなど気にしないで
ホットケーキでいいですから!と言ったのに。

「わあ美味しそう!あんなメニューあったんだ」
「可愛いーうちらも頼もうよ!」
「何処にあるの?メニューに書いてないんだけど」
「もしかして裏メニュー?」

でも来たのはまるで型に入れたみたいに食べやすいサイズに
ぴったりと合わされたケーキ3段重ね。
トッピングもフルーツにクリームになんとアイスつき。
その見た目の可愛さに周囲のお客さんからはジロジロ見られ、

何であの人だけ?

と視線が突き刺さる。それはもう痛くて死にそうなくらい。ズキズキと。

「やっぱりプロは違うんだなあ…うう。…もう二度と作らないぞ」

お菓子は完敗でもまだ家庭料理が残ってる。
肉じゃがとか。ハンバーグとか。カレーとか。スパゲッティとか。唐揚げとか。
どれも自分の好きな食べ物だけど。そういえば彼は何が好きなんだろう。
いぜんちょっとだけその話をしたような気もするけれど、もう一度きちんと聞こう。

「いいよ皿は置いといて、こっちで片付けるから」
「……忙しそうですよね」
「まあ。見てのとおりね」

呼べば来てくれると思われるがこんな全席フル稼働してる時間帯に堂々と呼べない。
かといってそのまま厨房へ入るのも何だし。結果、食べ終えた食器を手に中へ。
明らかにその方が怪しいのだが里真は気づいていない。

< 133 / 137 >

この作品をシェア

pagetop