恋のお試し期間
あと少しの努力



「後ちょっとなのに中々減らないなあ。やっぱりここは短期決戦でジムにでも通うか…」
「じゃあ一緒に見学行かない?近くに新しく出来たジム。結構評判いいらしくてさ、私も気になってたんだ」
「ほんと?じゃあ今日さっそく見に行こうよ」

やっと少量のお弁当にも慣れてきたお昼休み。今日も同僚と一緒に弁当。
里真に触発されたのか彼女もまた弁当にしてダイエットを始めた。
彼女は普通に痩せているようにみえるけれど。

「やる気だねえ里真。食べ放題も我慢してたし。無事付き合えたら絶対紹介してよ」
「うん」

紹介したらきっと驚くだろう。その時が今は少し楽しみ。
弁当を食べ終えてコーヒーでも飲もうと廊下にある自販機へ向かう。
昼休み中とあって行きかう人は殆ど居なくて静かなもの。
だけど自販機前に気まずい相手。矢田だ。食べてきた帰りか彼も弁当か。

「無視か」

そんな事はどうでもいい、ただ佐伯の事を悪く言うからあまり話したくない。
視線を合わさないようにして小銭を入れてボタンを押してコーヒーを取って。
話しかけられても何時もみたいに喋ったりはしないで戻ろうと思ったのに。

「無視です」

つい返事してしまった。言ってしまってからハッと口をふさぐ、これじゃ馬鹿だ。

「返事した時点で無視じゃねえな」

呆れたような口調で言うと去っていく矢田。それを眺めつつ。
里真も自分の席へ戻ると一緒にダイエット頑張ろうと言ったばかりなのに
買ってきたお菓子を食べている友人が。明日から頑張る、と言われた。



「ジム通うの」
「体験で明日いってみてよかったら通うつもりです。友達も行くっていうし」
「君が望んでいる事だしもちろん反対なんかしないからね」

ジム見学を終えて同僚と夕飯を食べてからの来店。食後のコーヒーは美味しい。
機嫌がいいから余計においしく感じるのかもしれない。
同僚と行ったジムは思っていた以上に綺麗で充実していて、これなら明日の体験をしなくても
入ってもいいかもしれない。友人も乗り気。でも、一応佐伯に話して様子を見たくて。

「良かった」

今までそんな相談もせずいきなり決めても怒ったりするわけない。

やっぱり彼は優しい人。

「だけどそういう運動するなら俺に言ってくれたらいいのに」
「え?」
「ほら。俺スポーツ好きだから。一緒に出来たら楽しそうだなって」
「ジムで体力つけたらお願します」
「…そっか。体力、ね」
「え。なんですか」

何時になくニッコリとご機嫌に笑みを浮かべる佐伯。
少し前なら何時もと変わりない彼の笑顔だと思っただろう。
でも里真にはそれが別の意味を持つものに見えてならない。

「頑張ってね里真」
「慶吾さん何か変な事考えてません?」
「え?変な事は考えてないよ」
「…そう、ですか」

絶対考えてる。

たぶん、その、あれだ。……えっちなこと。

里真は恥かしくて口には出来ないが。
見学に行って食事もした後のだからすっかり外は真っ暗で。
お店の雰囲気も昼間のあの騒がしさはなくてゆっくり落ち着いてお酒を飲む空間。
当然のようにカップルが多い。

「ごめんね、送りたいんだけど」
「まだお仕事中ですからね。分かってます、裕樹に電話して来てもらいますから」
「そうして。…もし彼が忙しいなら終わりまでここに居て」
「はい」

羨ましさと寂しさと眠気に襲われて時計を見て納得。
会計を済ませ店を出るとさっそく弟に電話した。この時間なら確実に家に居る。
彼は面倒そうに言いながらも迎えには来てくれるようで。里真も歩き出した。

店の前でずっと立っていると佐伯が心配してじっと見ているから。
忙しい彼に申し訳ないし何より恥かしい。子どもじゃないんですからと愚痴る。



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