恋のお試し期間



「あ。起きた」
「いい匂い」
「夕飯。出来ましたよお嬢様」
「え。あ。あ。すいません手伝いもしないで」

寝ていてもいい匂いは感じ取れるのか、目を開けると隣に佐伯はおらず。
匂いに誘われるまま台所へ向かうと完成した夕飯を持って出てくる佐伯。
そしてテーブルには里真がリクエストした料理たちがずらりと並ぶ。
ちょっと眠るつもりがうっかり夕方まで寝てしまったようだ。
起き上がって手伝おうとするがもう既に終わっていて。彼に促され席につく。

「可愛い寝顔だったよ」
「起こしてくれたらよかったのに」
「そんな勿体無い事できません」

彼の寝顔は可愛かったが、自分は絶対変な顔をしていたはずだ。
見られて照れる里真に嬉しそうな佐伯。
里真のワガママで豪華すぎる夕食を終えるとせめて片付けはとかってでる。
その間佐伯は心配そうに台所を見ていたが里真が追い払う。



「よし。完了」

若干もたつきながらも片づけを終えてリビングに戻ると彼は読書中。
でもすぐに本を片付けて里真に膝に乗ってと指示する。断る事は出来なかった。
言われるままに隣に座ったらそうじゃない向かい合ってと方向展開させられて。

「ちょっと寝ちゃったから時間延長だよ」
「はい」
「キスして」

里真から佐伯へキス。彼の手は里真の腰を抱きしめている。
彼女の手は佐伯の首へ。ギュッとくっ付いて。体温を感じて。
唇が離れた時の吐息が当たるくらいの近さ。

「慶吾さん?」
「里真、…君の…身体ってほんとに…魅力的すぎて困るな」
「え!?い、いえ。そんなつもりは」

珍しく照れているのか里真から視線を逸らす佐伯に
もしかしてまた胸でも当たったろうかとオロオロする里真。

「今はちゃんと我慢するけど。正式に君の彼氏になれたら俺きっと我慢出来ない」
「……」
「あ。もちろん君が嫌でないならだけど」
「…いえ。…嫌って…訳じゃ」
「ほら。里真。もっと俺にくっついて」
「慶吾さんえっちなこと考えてるでしょ」
「ん?具体的にどう考えているか知りたいの?」
「い、いいです。言わないで」

恥かしがりながらも促されるままにまた彼にギュッと抱きつく。
そして、今許されている限界であるキスをして。耳元では優しく甘く何度も愛を語られて。
里真は身体も心も熱くなっていく。今ここで彼が欲しいとさえ思ってしまうけれど。
まだダメ!とそれを何かが拒み。

結局顔を真っ赤にして目を潤ませながら耐えるのみ。
これはなんという拷問ですか。あと数キロの贅肉が疎ましい。

「…可愛い」
「わざとですよね」
「里真がその気にならないかなって思って」
「意地悪」

やっぱりそうだった。わざと煽ってた。里真は拗ねた顔をしてそっぽを向く。
けれど身体はまだ佐伯の中にありそこから出る気はまだない。

「今凄く気持ち良さそうだよ。ちょっと身体撫でて耳元でえっちなこと言っただなのに」
「……」
「黙ってしまっても可愛い」
「…慶吾さんってやっぱり裏があるのかな」
「え」
「だってずっと…その、…こんな…感じとか、思わなくて」

ご近所の優しいお兄ちゃんだと思って慕ってきた時間が長い所為だろうか
彼氏になってキスをしてそれ以上を強く求められると何だか違和感があって。
もしかしたらそういう面が佐伯にとっての裏の顔とか?里真はぽつりと思う。
ただ単純に、悔しいけど矢田が言うように男を知らないだけなんだろうけど。

「俺だって普通の男だよ。好きな君には独占欲とか性欲とか何時も以上に出るさ」
「……」
「そういうのが嫌いなら隠しているけど。嫌いじゃないんだよね?里真」
「知りません」

佐伯のといにプイと視線を逸らす里真。

「それとも、君に欲情するような俺は要らないかな。
近所の兄さんで居たほうがいい?それが君の理想ならそれに合わせる」
「そんなつもりじゃ」
「捨てるなら今だよ。お試しのうちにね」
「違います。慶吾さんなら、…いい、ですから。だから私ダイエット必死なんです!」
「ありがとう。嬉しいよ。里真」
「……またいじめられた」

でも佐伯の手がそっと正面を向かせて里真の唇を再び奪う。
その日は帰るギリギリまでずっと佐伯の膝の上で密着していた。
えっちに発展しそうだったのに踏みとどまれた自分に驚く。

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