恋のお試し期間



「結婚式の二次会ですか。それでこんな飾りつけて」
「飾ったのは企画した新郎さんの友達たちだけどね。綺麗だよね」
「ほんと。良いお友達ですね」

土曜日。特に連絡もせずお昼を過ぎてからお店に行ったらまず玄関に手作り感溢れる
新郎新婦の似顔絵つきのエルカムボード。中に入るとカラフルな花や風船でいっぱい。
友人たちの寄せ書きや楽しそうな写真が飾られたりして。
別の場所に来たかと思った。里真の声に出てきた佐伯に事情を聞いて納得。
本日は貸し切りでパーティ。

「もうすぐそのお友達たちが来て最終チェックしていくんだ」
「そっか。じゃあ」
「せっかく来てくれたのにごめんね」
「こっちこそ、事前に連絡したらよかったですね。ごめんなさい」
「連絡なんていいよ。君が来てくれるのが嬉しいんだ。…また、夜電話していい?」
「はい」
「明日はドライブでも行こうか」
「いいですね」
「こっち来て」

呼ばれ近づくと抱きしめられてキスする。今日はもう会えないから念入りに。
里真も彼にぎゅっと抱きついて甘えてみる。
佐伯に触れる事やキスにテレが徐々になくなるのを感じていた。

「…じゃあ、行きますね」
「これからどうするの」
「三波の所にでもいって喋りながら立ち読みしてきます」
「そっか。じゃあ、気をつけてね」
「ふふ。同じ町内ですよ?そんな」
「駄目だよ。気を抜いちゃ。何があるか分からないんだからね」
「はい」

最後にもう1度軽くキスされてから解放されて里真は店を出る。
あまり話が出来なかったのは残念だけど今夜また電話が出来るからいい。
それに明日はデートする。ドライブが楽しみ。

そのまま行きつけの本屋へ。
此方はイベントなどもなくのんびりとマイペースにやっているからいい。
とか言ったら怒られそうだから口にはしないけれど。

「やっぱ付き合うんだ。彼女居るって言ってたのに」
「それは、その。誤解だったみたい。話し聞いたら違うって」
「そうなの」
「う、うん。らしいよ?」
「ふうん」

モトカノの前でハッキリと今お試しで恋愛中なんて言う勇気は出ず。
はしょった説明をして適当に雑誌を手にして店主である三波の傍に座る。
彼女は本の整理をしながら特に何も言わず淡々と仕事をしていた。

「それでね。あと1.5キロ痩せる」
「どういう意味?痩せろって言われたの」
「ううん。私がね。少しは引き締まってたほうがいいじゃない」
「それくらいじゃ変わらないと思うけど」
「いいの」

これはケジメ。頑張ったという証が欲しい。その先にある佐伯との交際。
お試しである今でも十分甘いものだが本当に付き合うとなったらどうなるのか。
高校時代に付き合っていたという三波にどんなものか聞いてみたい気もするが。
聞いたらそこで嫉妬しそうな気がするのでやめておいた。

「ま、頑張ったら」
「うん。頑張る」
「泣いても慰めてくれる連中は居るからね」
「そ、そうだね。そこは安心だね…」

そんな訳ないでしょと跳ね除けるくらいの自信はまだ無いのが悔しい。
話題をかえながら特に中身の無い会話をして夕方まで過ごす。
読み終えた雑誌とは違う小説を1冊買って店を出た。まだ佐伯は忙しいだろう。
夜電話をしてくれると言っていた。それは嬉しいが無理はしてほしくない。

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