恋のお試し期間


「おー日野ちゃんじゃないの」
「あれ。何やってんの皆そろって」
「カラオケっすよ。日野さんもどう?」
「えーでもなー」

彼の事を考えながら家に向かって歩いていたら見たことある集団。
彼らも此方に気づいて近づいてきた。やっぱり元ダイエット部だ。
この前飲み会をしたばかりなのにまた顔を合わせる。地元組みだから当然か。

「やめとけこの人ジャイアンだから」
「ひ、ひど。私の美声をお見舞いしてやるわ」
「ということで。皆で行きましょうか」
「聴き惚れるなよ」
「それはない」
「ないない」
「うん。ないな」
「酷い」

上手く行って上機嫌だったのもあってすんなりと合流。
結局気の会う連中と合流し遅くまでカラオケで遊んでしまった。
調子に乗って歌いすぎた所為か喉がガラガラになって家に戻る。
そのまま眠ってしまいたいが携帯を見ると着信あり。

『今まで話をしてたのかな。それにしては電話自体通じなかったんだけど』
「すいません。それから別の友達と合流してカラオケしてました」
『無視されてるのかなって不安になったけど、そっか。カラオケね』
「怒ってます?」
『喜んでるように聞こえてるなら君って凄いSだよね』

あ。やっぱり怒ってらっしゃる。里真は焦る。とにかく謝ろう。

「ごめんなさい」
『いいよ。謝って欲しいと思ってるわけじゃないんだ。君にも事情はあるしね』
「……」
『責めてないって。だから黙らないで。黙られるほうが嫌だな』
「はい」
『明日は何処か行きたい場所とかある?』
「特には。でも、静かな所の方がいいかな」
『そう。じゃあ、こっちで適当に探しておこうかな。静かな場所』
「慶吾さん」
『声かすれてるのは歌ったから?』
「そうなんです。ちょっとシャウトしすぎたみたいで」
『無理したんだね。里真の可愛い声が…痛々しいよ』
「そ、そんなこと」
『今日はもう話をしないで寝よう。明日また元気に会いたいからね』
「はい。あの、…ほんとごめんなさい」
『いいから。もう休んで』
「…はい。おやすみなさい」
『お休み』

何時怒られるかとハラハラしながらも携帯を閉まってベッドに寝転ぶ。
明日会ったらすぐに謝ろう。何か出来る事があればいいのに。
お弁当でも作ろうか。たぶんギリギリまで寝てしまうのだろうけど。
考えている間に眠ってしまって。結局朝もバタバタと準備だけで終わった。


「あ、あの」
「おはよう里真。声戻ったね、よかった」
「…すいません…です」

家の前まで迎えに来てくれているとメールが来て急いで外に出る。
彼の車があって急いで乗り込んだ。座るなり頭をさげる里真。

「ごめんなさいもすいませんも聞きたくないよ。次に言ったら」
「言ったら?」
「君を家に帰してあげないよ」
「え」
「シートベルとして」
「は、はい」

冗談だよなと思いながらも顔が笑ってない佐伯にまたハラハラ。
走り出す車。里真は話すタイミングが分からず黙ってしまう。
ちょっと電話に出なかっただけでずっと怒っている人じゃない。けど。
これも全部矢田さんが変な事を言うからだ。きっとそう。
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