恋のお試し期間



「日野!」

涙目になっていると部屋に勢い良く入ってくる矢田。

「あ」
「どうした!悲鳴聞こえ…、ど、どうしたお前それ」
「わ…笑うがいいですよ!転んだんです…また」

散らばる資料舞い散るほこり、傍には虫の死骸。

地面に座り込む里真。

何時も矢田に笑われている場面だ。きっと今回も笑うだろう。

「…動けるか」
「腰うっちゃって」
「手貸すから動け。不衛生だ」

だが今回は静に手を差し伸べそっと起こしてくれた。
体についたほこりを払い椅子に座る。
その間に矢田は散らばった資料を棚に戻し虫の死骸はゴミ箱へ。

「……すいません。こんな仕事すらまともに出来なくて。でも半分はやりました」
「ちょっと待ってろ」
「え?」

言い訳がましいかなと思ったがでも半分はやったとアピールする。
でも矢田は一端部屋を出て行き次に戻ってきた時には手にはカップ。

「飲め。汗だくじゃねえか」
「…どうも」
「こんなもん適当でいいんだよ。適当に時間潰して時間来たら帰ればいい。
馬鹿正直に探す事なんかない。お前だってそれくらい本当は分かってんだろ」
「でも、自分に出来る仕事はちゃんとこなしたいと思って。少しでも役にたてたら」
「今日はもういい。帰れ」
「……やっぱり、ポンコツですね」

飲み物を一気に飲み干して立ち上がる。すこしクラっとするけれど。
でも、自分がどう足掻いたってさして結果は変わらなかったから。
プレッシャーに弱くてろくにサポート出来ない自分を恨むしかない。

「泣くなよ」
「別に泣きたいから泣いてるわけじゃなくて。勝手に出るんです」
「泣いてる場合じゃないだろ。明日からちゃんとサポートまわってもらうからな」
「…え」
「俺のサポートなら出来るだろ」
「…でも、足引っ張る」
「もう十分引きずられてる。けど、しょうがないだろ」
「……すいません」
「いいから。泣かれたら俺が泣かしたみたいで後味が悪い」
「……」
「言った傍から泣くな。何で泣くんだよ。何で俺がいっつもこんな役回りなんだよ」
「…何でですかね」
「他人事みたいに首傾げるなへし折るぞ」

帰る準備をして電気を消して戸締りをして会社を出る。
せっかく早く帰れそうだったのにこれではまた美穂子を待たせる。
少し遅れるとメールをしておいたけれど、花はバラにでもした方が良さそうだ。
ケーキも奮発して彼女が好きな少しお高いお店に変更。

「ケーキ買うんだ。あ。美穂子さんとデートでした?」
「まあな」
「す、すいません。あの、ほんと私空気読めなくて」
「あの仕事させたのは俺だ。だから、…お前にはこのおまけで貰ったクッキーやる」
「え。ケチ」
「要らんのか」
「ください」

店に寄ったのだが甘いものは興味あったらしくジッと見つめていた里真。
だが彼女にはおまけにもらった1枚だけのクッキーを渡した。
それでも嬉しそうにしていたからいいのだろう。


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