恋のお試し期間



「…なあ、日野」
「はい」
「もう食ってる」
「お昼ちゃんと食べてなくて。で、何ですか」
「ああ、もういいや」
「何ですかそれ。中途半端はいけませんよ?」
「お前が言うな。……なんつか。あんまり思いつめるなよ」
「え?」
「お前に何もかも担がせようなんて思ってないから。お前はただ言われた事を
するだけでいい。緊張するなとも言わない、皆緊張してる。ミスは命取りだからな。
だから俺もピリピリしてちょっと厳しい言い方になったかもしれないけど
だからってそれでお前を否定してる訳じゃないから」
「……」
「行き成り環境が変わったってのにお前は良くやってるよ。素直に評価する」
「…何かすごく寒気がするんですけど。あの、大丈夫ですか?頭とか」
「ああ。大丈夫だ。今からお前の頭にこの拳骨をめり込ませるくらいだ」
「ぼ、暴力は反対です」

拳骨はされなかったが思いっきり睨まれた。
けど里真はちょっと嬉しかった。初めて素直に褒められた。

「じゃあ俺花買ってくから。気をつけて帰れよ」
「はい」

途中まだ買い物がある矢田と別れて家路につく。
今日はもうもっと遅くなると思って佐伯には電話しますとだけメールした。
忙しくなっているのは彼にも話してあるから理解はしてくれていると思う。


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