恋のお試し期間
私だけが知らないこと?



『里真。無茶してない?怪我の事は上司には話をしたの?』
「はい。仕事もそんなハードじゃないんで。私がどんくさいだけで」
『…怪我をしているのにこんな時間まで仕事をさせるなんて』
「慶吾さんそんな心配しすぎですって」
『明日は早く帰るんだよ。俺に顔を見せて』
「あ」
『駄目…なのかな。まだ遅いのかな』
「あ。い、いえ。…行きます。お店」
『よかった』

仕事への気持ちを切り替えたのに。会えない時間が増えると思うと憂鬱。
仕事と恋愛を両立させるにはどうしたらいいのだろう。贅沢な悩みだろうか。
里真はそれから暫く佐伯と話をして満たされた気分で眠りについた。

「男の人ってどういうプレゼントが欲しいですか?」
「なんだって?午後のプレゼンをやりたい?ほうそうかじゃあ俺が話しつけて」
「何でもないです嘘ですごめんなさい私語禁止」
「お前の話しなんか興味ねえ浮かれるのは仕事終わってからにしろさもないと」
「やりますやります全力でやります」

翌日はちゃんとプロジェクトに参加して細々とだがサポートもして。
残業していく面々を残し自分はもういいだろうと早々と定時に退散。
お店へ行く前に佐伯にプレゼントを買おうと向かった先は花屋だった。
昨日、矢田が恋人に花を買っていくのを見て自分もそうしようと思った。

「里真」
「あれ。三波」
「仕事帰り?」
「うん」
「花なんか…どうするの?家用にしてはラッピングが派手ね」

ばったり出くわす三波。同じ商店街だから彼女は買い物中だろうか。

「これね。へへ。慶吾さんにと思って」
「へえ」
「中々いいでしょ。私にしては」
「そうね。いいんじゃない」
「喜んでくれるといいけど」
「……」
「ん。なに?」

物思いに耽っていると此方をじっと見つめている三波。

「…あ。ううん。喜ぶと思うよ」
「でしょ。メッセージはちょっと恥かしいからやめたんだ」
「里真」
「なに?」
「里真。……いや、いいの。気にしないで。じゃあね」
「あ。ちょっと。三波」

それだけ言うと逃げるように去っていく三波。
何か言いたそうだったけれど、どうしたんだろう?変なの。
よく分からないけれど。里真も花束を手に店へと向かう。

「いらっしゃい里真。……この花束は?」
「もちろん慶吾さんにプレゼントです」
「え。い、いいの?こんな綺麗な花束。うれしいな。ありがとう」

店へ行くとすぐに彼が出迎えてくれて。抱きしめられる前に
後ろに隠してあった花束を彼に差し出した。

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