熱愛には程遠い、けど。
 化粧室で鏡に映った自分を見ながらため息をついた。おでこに出来た吹き出物をファンデで隠してさらに前髪で隠す。最後に全身鏡で全体をチェックして仕事に戻ろうとすると個室から人が出てくる気配がした。自分一人しかいないと思っていたから驚いてしまった。
「はぁ~辛い……」
 普通なら気配がしたところでそのまま振り返らず立ち去るのだけど、独り言にしては大きな声に足を止めて振りかえってしまった。
「うっ……気持ち悪……」
「大丈夫ですか!?」
 手洗い場の前で俯く女性に駆け寄って、鏡に映る女性の顔を確認して言葉を失った。 
 宮下さんの……元彼女と思われる女性だった。
「あぁ……ごめんなさい。お気になさらずに……」
「でも……顔色がすごく悪いです」
「ちょっと最近疲れが溜まってて……」
 休み明けなのに疲れが溜まっていると言うことは、きっと休みなしで働いているのだろう。
「あれ? あなたどこかで……」
「え? あ、えぇっと……」
「あぁ! 宮下の隣の席にいた人!」
「はい……そうです」
 鏡越しの会話が続いていたけど、直に目を合わせると女性はにっこりと笑った。
「この間はすみません。あ、自己紹介がまだだった。私、小嶋って言います」
「古川です」
「古川さん、古川さん……うん、覚えた」
 初対面の印象と同じ。サバサバとして明るい雰囲気のバリバリと仕事をする雰囲気が漂う大人美人。
「私転勤で海外にいってて日本(こっち)に戻ってきたばかりなんです。やっぱいいわぁ~日本。食べ物美味しいし! あ、社食がリニューアルしててびっくりしたぁ昔は正直イマイチだったのよぉ」
 そして……よくしゃべる。その勢いに押されて私はただただ頷くだけ。
「宮下とは長いの?」
「……へ?」
 突然宮下さんの話が出て、しかもその質問の意図がすぐに理解できなくて固まる。

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