あなたのヒロインではないけれど



「ひ、氷上さん……」


手が、震える。


何の意味があって……指輪を、私なんかに。


(ううん、きっと意味はない……そうだ。これはたまたま可愛い手頃なリングがあったから……それだけ。深い意味なんて……絶対、ない)


きっと指輪の素材も合金で、指輪も500円かそこらのお手頃なもの。指輪のサイズが合ったのは……たまたまで。


(そうだよ。氷上さんだって勘違いされたら迷惑……だから。今は、ただありがとうとお礼を言えばいいだけ)


「あ……あの、あ、ありがとう……ございます」

「いいえ。大したものではありませんから」


いつもの穏やかな顔で微笑まれ、やっぱりとの思いを深くする。彼の瞳から、熱情とかそういったものは窺えなかったから。


(ほら、やっぱりね。大した意味はないし、お値段も……)


ホッとして、だけど。これはきっと最初で最後の指輪。これが子ども用の玩具でも……私には1カラットのダイヤの指輪より価値があった。


(氷上さんから……頂けたなんて。ずっと大切にしよう……きっと他にプレゼントされる機会なんてないから。ずっと身に付けて……)


思ってもみなかったプレゼントを眺めているだけで、後からじわじわと嬉しさが込み上げてくる。幸せに泣きそうになった時――右手が大きな手のひらに包まれた。


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